感じるままに踊ればいい つじつま合わせはその後 わざとらしいなっていつも思う。だから「わざとらしい」っていつも言うけど、「そうかな」って困ったように笑うから結局ごまかされてしまう。例えば今だってこの触れるか触れないかビミョーな距離にある指先とか、本当に酔ってんだかそうじゃないんだかわかんない潤んだ目とか赤みがさす頬とか、言葉だってそう。「コタくん」ってちょっと小首かしげて見つめてくるその上目遣い、もうプロ級だよね、化粧品のモデルとかできんじゃん?俺がこの人のこと好きだって、わかってて、わかっててこういうことしてくるんだとしか思えない。わざとらしい。くじ引きで、隣になったとか。「わあ、コタくんの隣だ、やったあ」ってニコニコ笑ってきたりとか。何なんだろうこの生き物。ムカつく。可愛い。すき。 「コタくん、どうかした?」 でもこの子、俺のモノにはなってくれないから。余計ムカつく。 「なんでもなーい」 だって、彼氏いるんでしょ。首から下げてるそのネックレスのアルファベット、アンタのイニシャルじゃないでしょ。首輪みてえ、と思いながら温くなったあっまいチューハイを一口飲んで「アコちゃんさあ、もうやめといたらー?」と横目で伺う。「私お酒弱いんだあ」とか言ってたじゃん。ねえ、かっわいい顔してさあ。「え、なんで?」キョトン顔すんな。くっそ。大人しく座ってんのは最早俺らだけで、他は騒いでるか各々誰かと世界を作り上げてるか、そんな感じ。俺らもまあ二人の世界つくりあげちゃってるように見えるんだろーな。ねえいいの?後からカレシに密告されちゃっても。困ったことになんないの?なんでちょっと距離近いの?なんでそうやってオレの顔じっと見るの。「顔赤いからさ」そういうオレの顔も赤いんかなーはーやだやだ。「そうかな」あーそれだよそれ、そのほっぺに手ぇあてたりする仕草とかさ!そういうの!わざとらしい!でも好き!狙ってんのか! 「あのさ」 「ん?コタくんさっきからどうしたの?」 「アコちゃん彼氏いるんでしょ」 「えっ、あ、うん、まあ…」 否定しないんだ、しないんだ!じゃあオレの勘違いってことかなコレ!いやいや馬鹿な!「じゃああんまオレとばっか喋ってんのいくないかな」顔がうまく見れなくって、さっきからずっとチューハイとばっかり見つめ合ってる。ちがう。お前なんか見たくない。本当に見たいのは違う。でもそっちは見ちゃダメ、で。もどかしいなァ。なんて一人でうじうじしていると「そんなことないよ」とアコちゃんの声がうるさい居酒屋の喧騒を裂いて真っ直ぐオレの耳に突き刺さった。「そんなこと、ない」 「コタくんと話すの、楽しいよ」 はにかんで、うまいこと回避して、そういうのわざとらしい。「わざとらしい」といつもみたいに零すと、「そうかな」ってまた困ったように笑う。別に困ってないだろ。純情な男心弄んで楽しいかなあ?ねえいっそ本当に困っちゃう?長らく見つめあったチューハイから視線をそらして、耳元に口を寄せる。 「じゃあこの後ふたりで抜け出そっか」 そっと耳打ちすると、驚いたようにオレの顔を凝視して、それからいつものほわほわした笑顔と違う、唇の端を吊り上げるように歪めて、愉快そうに目を細めた。 「いいよ?」 テーブルの下で指先がそっと触れ合う。今すぐチューしたいのを我慢しながらこっちも口角をあげる。ああ、そっちの顔の方が見てみたいや。
style/平井堅 |