どんなに離れてても 強く感じてる 君からの光 ずっと届いてるよ たとえ君の気持ちが 消えたとしても 気付かないんだ 僕は 今も輝く あの星のように *** 『ずーっとなかよしでいようね。』 オレの中のあの子の記憶は、この言葉と笑った顔。ただそれだけ。あ、言われた場所も覚えてる。近所にある公園の、クローバーが生い茂ったあの場所だ。シロツメクサで冠を作って、確かお姫様ごっこに付き合わされたんだっけ。もちろんオレが王子様で、あの子がお姫様。ああそうだ、確か結婚式が、とか言ってたな。 どうして俺がこんな昔の記憶を掘り返しているのかと言うと、今日その”あの子”がオレの通う高校に転校してきたからだ。小学生の真ん中位で引っ越してしまったから記憶も曖昧だったけど、その顔を見て一気に思い出した。同じ名前、同じ笑顔。髪は少し短くなった印象だけど、ゆったりとした話し方はあの頃とほとんど変わっていない。 最後尾の席から自己紹介そっちのけで彼女に見入る。もしかしたら目が合わないかと、その顔をじっと見つめた。でも彼女は挨拶もそこそこに、先生に言われた席に向かって歩き、オレの遙か彼方の席へ音もなく座ってしまった。 一気に抜ける肩と息。背もたれに背中を預けると、古いイスが音を立てて軋んだ。 そうして1週間。オレは未だ彼女に声をかけられないまま。 忘れられているかもしれない、という気持ちがオレを動けなくさせている。 数学のワークを教室に忘れてしまったことに気付いたのは、着替えが済んで体育館に向かおうと思ったすぐだった。先輩に断って、走って教室へと向かう。放課後の廊下はとても静かで、オレのバッシュが床に擦れる音だけが響いている。 僅かに息を切らして教室の扉を開けると、そこにはあの子が座って何か作業をしていた。 誰もいないと思っていたから、一瞬言葉を失う。吸った息は肺の手前で止まってしまって、そのまま吸いきることも、吐き出す事も出来なくなってしまった。固まるオレを見て不安げな顔で見てくるあの子は、まるで知らない人を心配するような、そんな距離感があった。 「き、せくん…?」 「あ、うん、忘れ物…、」 たどたどしい会話に自分自身呆れる。女の子と話しをするなんて、これが初めてじゃないのに。鳴り響く心臓を必死に抑えながら、自分の席へと向かって目当てのものを取り出した。本当はすぐにでも立ち去ればいいのに、オレは訳もなく中を確認するようにそれをぱらぱらとめくる。 「……つ?」 何か聞こえた気がして、あの子の方へ目を向ける。振り返ったままオレを見ていたあの子は、真っすぐにオレを見つめていた。 「…ごめん、もう一回言って?」 「あ、部活?って聞いたんだけど…、」 「ああ、そうッス…」 「そっか、…。」 流れる沈黙に汗がジワリと浮かんだ気がして、オレはそれに鳥肌を立てた。何て言おう、何て…聞こう…。 普段考えもしない色んな事が、驚く速さでオレの頭の中を駆け巡った。ホント、らしくない。 きっとオレの事は忘れてしまったのだろう…そう思った方がむしろ楽だと感じた。 最初から始めるのもいいかもしれない。そしていつかまたこの距離が近づいた時、オレはあの時の事をそっと教えてみようと思う。 その時キミはどんな反応をしてくれるのだろう。想像したら少しだけ悲しかったけど、それよりもわくわくの方が上だった。 はじめまして、こんにちは。キミの名前、教えてくれる?
ベテルギウス / コブクロ |